誕生

 「今、ここからすべての場所へ」を読む。前半部は著者と読み手の私との回転数が合わず、読んでいて苦しかったのだけれど、"なぜ、それをここでは感じられないか"あたりからギアがガチッと噛み合い読んでいてとても心地が良かった。
 私がいま信じていること(あるいは信じてしまっていること)を省察してみる。意識に上りうるものとしては、お手ごろなリプトンのミルクティーの甘みがもたらす幸福感であるとか、水溜りを踏んづけて靴が浸水したときのイライラ感であるとか、物や人や事件そのものとそれが引き起こす私への影響みたいなもの、それらが誕生と消滅を繰り返すという事態自体に寄り添っている。
 それらの誕生や消滅は、私にとって何らかの行動の正当性を担保はしない。欲望や衝動は強いてくるが、否定もせず肯定もせず。怪我をしていたり興奮していたりすれば簡単ではないが、意味に急行せず、花火や音楽や舞踊を鑑賞するように眺める。
 なぜそのように事態が開花し散っていくのかはわからない。塩をなめるとしょっぱいクオリアが、恋人に振られると胸を引き裂かれるような気持ちが、立ち現れては雲のように薄れ消えていく。拙いながら私がつむぎだすこの文章も私自身も、あるようにあるが、まことに不可思議である。
 生(なま)を実感し、ジャングルのような間断の無い多様な誕生と消滅の美しさの只中にいる。