沈殿

 懐かしい場所、懐かしい友人、懐かしい記憶は、時の流れと合わさって、静止した観念を打ち壊してくれる。
 そのままでいるものなど何もない。静止した価値観からすればそれは残酷で、時という流れに寄り添えばそれは見つめる値打ちのある美である。
 流れの只中で、滑空するグライダーから見える景色は心の奥底に届く。その返す波で沈殿していた澱とともに心は流れに溶け込んでいく。


 このごろ、坂東玉三郎がプロフェッショナルで語ったことを折に触れて思い出す。彼は深い悦びに包まれて生きているように見える。