素朴

 背筋が伸びるまでの背景でもよいのだが、調理せぬまま、素朴に、車窓から眺めたときに受け取った非言語的な感触に寄り添ってみる。
 街を行き交う人の波。それを成すひとりひとりに人生の軌跡がある。その膨大な集積の中に、わたしと私の抱える悩みもある。気の遠くなるような海で、なんとちっぽけなのだろうか。流れの圧倒性にしばし、わたしを忘れる。
 またあれだけ人がいるのだから、社会的な役割の代わりはいくらでもいる。頭角を現すのなら、相当の不断の鍛錬が要るだろう。
 ただ美しさに触発されたのではない。暴力的な奔流とさえ感じる流れにわたしは心奪われ、なんともいえない安息のような心地になったのだった。