永遠の今


小林秀雄は「無常といふ事」で
「過去から未来に向かって飴のように延びた時間という蒼ざめた思想」
と述べた。


過去を思い返すとき、
時間軸に沿った線分の形で思い起こす。
だが今はどうも線分ではない。


そうすると
過去のその時も線分という感触ではなかったはずだ。
今のように、何が起こるかわからない
生き生きとした新鮮な色に満ちていた。


よく言われることだが、時間というのは畢竟
物質の状態の変化ではないか。
過去と現在に考えているほどの距離はないのではないか。


一見遠く手の届かないような
あのセピア色の日々は
実はすぐ近くに息づいているのではないか。


それを実感できるかどうかは、
今との向き合い方に如実に現れる。
”つまらない”とか”単なる”とかいった決め付けは、
過去から未来に向かって均質で閉じた線分として
対象を把握しようとする態度である。


変容し続け、更新され続ける何かであると感じるのならば
決めつけなど出来たものではない。


数直線上の過去と未来間の一点としての今でなく、
我々がそこでしか生きられない今を抱きしめられるか。

カサブランカ


Yvonne: Where were you last night?
Rick: That's so long ago, I don't remember.
Yvonne: Will I see you tonight?
Rick: I never make plans that far ahead.


抱きしめることは深い喜びをもたらすが、同時に
黙々と孤独に歩む試練も課される。

prisoner of love 宇多田ヒカル


I'm gonna tell you the truth
人知れず辛い道を選ぶ
私を応援してくれる
あなただけを友と呼ぶ

仕事が出来る人はなぜ筋トレをするのか 山本ケイイチ著


「自らの意思で、自らに辛いことを課す」
これは精神にも筋肉にも共通する、普遍の成長原理なのである。


身も蓋も無い現実を直視することになる。
割れたグラスは元には戻らないし、
石ころは掌でパンには変わらない。
傷つくこと、失うことは避けられない。
更新し続けること。


生きているうちは自分で更新するチャンスを与えられているのだ。
しかも死んでしまっても、さらに別の形で更新され続けていく。

小林秀雄


「其処に行くと死んでしまつた人間といふものは大したものだ。
何故あゝはつきりとしつかりとしてくるんだらう。
まさに人間の形をしてゐるよ。
してみると、生きてゐる人間とは、
人間になりつゝある一種の動物かな」


茂木健一郎の新著
『今、ここからすべての場所へ』のタイトルからそんな想起をした。
精読の重要性に気がついてから
良書に向き合う時間は長くとるようになったので、
イスラーム文化 その根底にあるもの』を読了してから、
手に入れてじっくり読みたい。


最後に。
記憶が曖昧なのでまったく別人のエピソードだったかもしれないが、
ニュートリノを点で考えても、てんでわからない」
小柴昌俊が好きな冗談だそうである。
時間に関して言うなら
「時間を線で考えても、わかりゃあせん。」