どこか遠くではなくて

 美禰子に翻弄される三四郎のように、先頃の麗らかさが忘れ難い。日向を見つけてはちょこちょことその中を歩き、少しでもあの温もりの感触を思い出そうとする。
 以前まではさして注意を惹かれなかったが、世界は音楽だという表現がこの頃とても気になるようになった。決して立ち止まることなく、適切な音色を的確なタイミングで重ねていく。左右への時間の流れというよりも、奥から手前に向かうような時間の流れ。花が開花していくような感触。かけがえのない今を、工程を重ね丁寧に成形していく。音楽は聴くと言うよりも愛でるものなのかもしれない。